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教員のリアルを知る

時間講師STORY 04特別支援学校

長井 光司
都立足立特別支援学校
平成25年度任用

時間講師になる以前について

 造形学部を卒業した後、昭和53年に都心にあるデザイン会社に入社し、グラフィックデザイナーとして働き始めました。ところが非常にハードな職場だったことから、このままでは健康を害するのではと案じ、転職を決意しました。何らかの形で美術には関わりたいと希望しており、それには美術の教員がよいのではと考え、折よく美術教員を探していた特別支援学校で働くことになりました。以来、平成25年に59歳で退職するまで、特別支援学校、ろう学校で美術教員として働きました。
 当初、特別支援学校のことは何も知らずに働き始めたのですが、たちまち子供たちの朴訥さや、彼らの制作する造形物の斬新さの虜になってしまい、他校種の学校へ異動することは全く考えずに、この道一筋で歩むことを選びました。とにかく教員である私の想像の及ばないような作品を生み出す子供たちにエネルギーをもらいながら、勤め上げることができたと実感しています。

時間講師に応募したきっかけは?

 正規職員として長い間忙しく働いてきましたから、退職後はのんびり過ごすことを楽しみにしておりました。しかし生来のせっかちな性分ゆえ、1週間もすると、もう落ち着きません。回遊魚型人間を自称する私は、常に何かしていないと息苦しくなってしまうようです。そこで時間講師の候補者として名簿に登録し、足立特別支援学校からお話があったことで、すぐに教育の現場に戻る決意をした次第です。まさに渡りに船でした。
 難点があるとすれば、自宅から遠く、通勤に1時間半以上かかることです。その点は、確かに少し躊躇しました。しかし、きっとすぐに慣れると自分に言い聞かせて、働くことにしました。実際、思ったほど通勤は苦ではなく、むしろ学校の雰囲気がとてもよくて、長時間通勤を気にすることなく、楽しく通えるようになりました。

実際に時間講師として働いて感じるやりがいは?

 美術は私という人間の“核”となるものですから、そこを活かして生徒たちと向き合えることは、大きな喜びです。例えば入学時には全く他人と会話ができない生徒がいました。クラスにも溶け込めず、1人で心を閉ざしていた様子でした。しかし美術の指導を通じた交流をきっかけに彼が次第に心を開いてくれ、3年後には私と冗談を言い合えるほどになりました。生徒のこうした成長を目の当たりにできることは、教員冥利に尽きます。
 授業においては、私なりに創意工夫したこだわりを大切にしています。生徒たちが色を塗りやすい画材を用意したり、コツコツと根気よく作業することが得意な生徒が多いことから綿棒を使って描く技法を取り入れたり、クイズやトリックアートで注目させたり、家に持ち帰った作品が捨てられないよう、本やカレンダーの機能を持たせることも試みました。このように自分で編み出した技法や工夫をすぐに教室で実践に移せることも、美術教員としてのやりがいです。

正規職員との違いや働く環境について感じること

 正規教員時代は美術の授業以外の、多岐にわたる仕事に追われて過ごしました。しかし時間講師として働き出してからは授業に専念することができ、時間的・精神的なゆとりも生まれました。
 現在私は71歳で、気力は十分あるものの、体力的にはだいぶ衰えてきたことを実感します。それでもこうして教員の仕事を続けられているのは、時間講師ならではの、ゆとりが持てるためではないでしょうか。授業とは別に毎日のように創作活動を行い、個展・グループ展に継続的に作品を発表できているのも、そのためだと感じています。

ライフ・ワーク・バランスについて

 働く環境についてお話ししたことにも通じるのですが、働く時間を自分の意思で調整できる点は、良好なライフ・ワーク・バランスを保つ上で非常にありがたく感じています。
 現在私は、時間講師として、月曜日2時間、火曜日4時間の授業を行っています。そのほかに、週2時間ほど美術部の部活動指導員も務めており、合計約8時間働いていることになります。これまで最も多いときは4校で時間講師を務め、週5日働いていたこともありました。すべて特別支援学校とろう学校です。その後、体力が落ちていくことを実感するにつれて徐々に学校を減らしていき、現在は1校だけとなりました。このように体力的に無理のない範囲で働き続けられる点は、時間講師ならではの魅力です。
 今後、何歳まで働けるか分かりませんが、自分の体と相談しながらできるだけ長く続けたいと考えています。

時間講師を目指す方へのメッセージ

 自分で時間をコントロールしながら、ライフ・ワーク・バランスを大切に働き続けられるのが、時間講師です。私のように定年を迎えて退職された方はもちろんのこと、何らかの事情で早期に退職された方も、ぜひ教育の現場に戻ってみてはいかがでしょう。大勢の子供たちと毎日触れあうことで、たくさんのエネルギーを分けてもらえるのも、教員ならではの喜びです。
 長寿社会の今、60歳を過ぎても元気に働き続ける方はずいぶん増えました。今の時代の60歳代は、まだまだ元気で、パワーにあふれています。その力を活用しないのはもったいないと、私は思います。もっと大勢の同世代の方に、ぜひチャレンジしていただけたら嬉しいです。

COLUMN
東京都の時間講師の魅力

 正規教員時代も含め、これまで6校の特別支援学校、2校のろう学校で美術教員を務めてきました。それぞれの学校に個性があり、多様な経験ができたと思います。特別支援学校やろう学校に限らず、このように数多くの学校があるという点で、東京都は日本の中で突出しています。教員として働く場所がこれほど多いことは、東京都ならではの魅力でしょう。