
時間講師STORY 03高等学校
- 佐藤 顕弘
- 都立深川高等学校(取材校)
他2校勤務
平成4年度任用
時間講師になる以前について
もともと書道が大好きでした。高校時代も書道の授業は楽しみで、2年生の3学期に「大学でも書道を学びたい」と相談したところ、先生に中国文学科に進んで書道を学ぶ道を教えていただきました。当時はまさか書道で食べていけるとは想像もしていなかったので、好きなことをしながら今日まで人生を歩いてこられたことを感慨深く思っています。
時間講師に応募したきっかけは?
大学卒業後は大学院に進みました。修士課程です。その際、都内の学校で時間講師をしていた先輩を通じて、ある高校が時間講師の人材を探しているとの話をいただき、お受けすることを決めました。理由は、生活のためです。次の採用試験を待つ間、働かないわけにはいきませんから、非常にありがたい話でした。また、私の通っていた大学では博士課程がなく、その設立を文部科学省に申請しているところでした。申請が通って博士課程ができるまでの数年間を待つ間だけ教員として仕事ができれば、との思いもありました。
初めて時間講師として着任したのは平成4年のことです。以来、30年以上にわたって時間講師の仕事を続けてきました。安定した生活を営み、途中、同じく教員をしている妻と結婚し、子供も3人生まれました。
正直なところ、書道の教員を強く志していたわけではなく、時間講師を探しているとの話がなければ、あるいは博士課程が既にできていたら、まったく違った生き方をしていた可能性もあるでしょう。人生の不思議を思います。

実際に時間講師として働いて感じるやりがいは?
時間講師は、特定の教科に特化して取り組めるプロフェッショナルです。自分のスキルやアイデアで授業を計画し、思うようにその幅を広げていくことができます。その結果、生徒の成長や人生に深く関われる喜びが得られます。教え子が卒業後も書道への関心を持ち続けてくれていると知ることは大きな喜びですし、大学の書道科への進学を希望する生徒の受験指導を通じ、合格に尽力できたときも達成感が得られました。さらに私と同様、都立高校で時間講師として働いた後、他県の私立高校で書道科の専任教諭として採用された教え子の存在は、私の誇りです。
また、他校の時間講師や他の業務を兼務できることも、魅力です。現在私は都立高校3校で書道を教えておりますが、高校が違えば生徒の個性も大きく違うことを実感します。複数校で指導することにより多様な生徒に接することができ、それが教員としての私のスキルを磨くことにつながっているのは間違いありません。
正規職員との違いや働く環境について感じること
芸術科書道の場合、正規教員の配置がなく、教科に関しては正規教員と同様の業務を行っています。校内の分掌や担任業務を行う必要はありません。そのため自分の好きな書道に特化して取り組める点が一番の魅力です。
書の世界は、作家や大学の教授など名のある専門家がメインストリームとして活躍しており、私はそういうところとまったく無縁に、子供に教えることを通じて書を続けてきました。そうした姿が出版社の目に留まったのか、教科書の編纂委員としてお声をかけていただきました。このように兼業ができることは、正規教員にはない、時間講師ならではの恵まれた点です。
また、正規教員より同一校での勤務年数が長くなる傾向にあり、過去からの蓄積に基づく視点が持てると同時に、勤務校への強い愛着も生まれます。

ライフ・ワーク・バランスについて
時間講師と聞くと、不安定な働き方とのイメージを持たれるかもしれません。しかし、私が30年以上にわたって続けてこられたように、決して不安定ではないと思います。
一定期間まで経験年数が報酬額に反映されること、勤務形態に応じて付加報酬が付与されること、雇用保険があること、慶弔休暇が認められていることなど、待遇面で正規教員に著しく見劣りすることはありません。私も週末には書の作品制作に趣味で取り組んだり、夏季休暇には家族旅行を楽しんだりしています。穏やかで安定した生活を送りながら、充実したプライベートタイムも実現できていることに満足しています。
時間講師を目指す方へのメッセージ
時間講師とは自分の得意な教科に特化し、時間や働き方を主体的にコントロールしながら続けられる働き方です。夜間定時制高校で働くようにすれば昼の時間を自分のために存分に使えますし、授業数を増やせば収入も増やせます。ぜひ自分の人生の目標やライフプランに合った働き方を実現していただければと思います。
一方、正規教員ではないからと“お客様”のような意識は絶対に持ってはなりません。教壇に立つ以上、生徒にとっては正規教員も時間講師も、等しく“先生”です。教えること、生徒に関わることが好きかどうかを常に自問しながら、教育者としてのプライドが持てるような授業を行ってください。

COLUMN
東京都の時間講師の魅力
首都である東京都は他県から高い関心を寄せられています。そのため他県の教員や様々な関係者と交流が生まれやすいことが特徴でしょう。同じ時代を生きる多くの仲間と知り合うことで、生徒たちの世界を広く俯瞰することもできます。こうしたことは自分を磨くことにつながり、活動の広がりや教員としてのスキルアップに結びつくと感じます。